最初に伝わった漢字の音は、長江下流域の呉の地方の発音でしたので「呉音(ごおん)」とよばれます。呉音は、朝鮮半島の百済(くだら)を通じて渡来したので「百済音」、対馬を経由したので「対馬音」とも云われます。
「漢音(かんおん)」は、その後の隋・唐の音を遣唐使や留学生が長安(現在の西安)や洛陽地方から伝えられたものです。当時中国を一般に漢(から)と言っていたので、漢代の音ではないですが漢音とよびます。朝廷はこの漢音を「正音(しょうおん)」として尊び、勅令を出して、以後の読書は漢音でせよと唱導したため、日本における漢字音は漢音が主流となりました。『古今』を「コキン」と読むのは、漢音で読んでいるわけです。
時代が下って、中国の宋の時代になると、日宋貿易や禅僧の往来などによって、新しい中国音が伝わって来ました。当時は中国を唐(から)と言っていたので「唐音(とうおん)」ということになりました。ただし、現代では「唐宋音」とも「宋音」ともよんでいます。その後、明代、清代の音も入ってきますが、これらも大きく唐音に入れています。
漢文はふつう漢音で読みますが、慣用で呉音が定着している言葉も混じっていて、新来の語彙の中には、唐宋音がそのまま使われているものもあります。これが、日本で使われている漢字音が複雑になっている原因でもあります。
呉音で読むと変な例として、「美人」は「ミニン」、「白金」は「ビャクコン」、「埋没」は「マイモチ」となります。これはとても違和感があります。
呉音が定着している例は、人間(ニンゲン)、六月(ロクガツ)、天井(テンジョウ)、胡麻(ゴマ)などがあります。これを漢音で「ジンカン」、「リクゲツ」、「テンセイ」、「コマ」と読むととても違和感があります。
唐宋音には、長崎や京都宇治の禅寺などから出た言葉で次のようなものがあります。
和尚(オショウ)、喫茶(キッサ)、椅子(イス)、簞笥(タンス)、行燈(アンドン)、行脚(アンギャ)、算盤(ソロバン)…
漢字字典などには、音の種類も記載されています。呉音、漢音、唐音の他に慣用音などもありますので、とても複雑ではありますが、音から伝わった時代背景を見てみるのも面白いかもしれません。「喫茶」、「世間」など仏教由来の言葉が、唐宋音、呉音になっているので、仏教用語は全て呉音ということでもないわけですが、呉音で読まれることが多いようです。
【参考書籍】
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