2013年1月15日火曜日

宋の四大家のひとり、黄庭堅


 黄庭堅(1045-1105)は、洪州分寧(現在の江西省修水県)の人。字は魯直(ろちょく)、山谷道人(さんこくどうじん)、涪翁(ふうおう)などがあります。蘇軾、米芾、蔡襄とならぶ、宋の四大家の一人です。

 中央の官僚として、一時華やかな時代を過ごしましたが、後半生は流罪などの不遇の中で生涯を終えました。そのような挫折が黄庭堅の詩や書を高い境地に押しやったともいえます。特に草書への情熱を持ち続け、二王(羲之・献之)、顔真卿、張旭、懐素を学び、筆法の鍛錬に努め、常に自分の未熟さを受け止め、生涯努力した人です。

 『李太白憶旧遊詩巻は、唐の李白の詩を書いたものですが、前半が欠失している断簡です。紹聖元年(1094年)以後の書で、書道史上の最高傑作の一つとされています。元・明代の草書体が、二折法(王羲之書法、古法)で書かれるのに対して、この書においては、二折法的な古法的表現を払拭し、徹頭徹尾、新法(=三折法)、新々法(=多折法)に依拠して書かれており、新法草書の極限ともいえる書作品です。

 黄庭堅の作品は『伏波神祠詩巻』、『黄州寒食詩巻跋』、『松風閣詩巻』、『李白憶旧遊詩巻』などが知られています。

・伏波神祠詩巻(ふくはしんししかん)



 建中靖国元年(1101年)5月、荊州で劉禹錫の「経伏波神祠詩」(ふくはしんしをへるのし)一首を楷書に近い行書で書いたもので、晩年の傑作として著名である。毎行3から5字、46行にわたる大作で、張孝祥や文徴明らの多くの跋がある。紙本33.6×820.6cm。永青文庫蔵。

・黄州寒食詩巻跋(こうしゅうかんじきしかんばつ)



 元符3年(1100年)の書で、蘇軾の『黄州寒食詩巻』に彼が題跋したものである。蘇軾の書も彼の快心の作であるが、この題跋も黄庭堅の作品の中で特にすぐれたものである。
 行草体で9行、落款はありません。内容は蘇軾の書を評して、「顔魯公・楊凝式・李建中の筆意を兼ねており、蘇軾に再び書かせてもこれほどの出来ばえにはならないであろう。」と讃えている。が、それにもまして黄庭堅の跋は尊敬する蘇軾の書を前にして堂々たる気構えをもって書している。そこには顔真卿と楊凝式の書法を学んだ跡が見られ、しかも禅僧のような気魄に満ちています。

・松風閣詩巻 (しょうふうかくしかん)



 崇寧元年(1102年)の流謫中の書で、晩年の作として特に重視されている。自詠の詩を行書で29行に書いている。この詩巻には顔真卿の他に、柳公権の筆意をも兼ねあわせた筆致が伺え、一段と円熟した境地に達している。紙本。台北・故宮博物院蔵。

・李白憶旧遊詩巻(りはくおくきゅうゆうしかん、李太白憶旧遊詩巻とも)



 紹聖元年(1094年)以後の書で、李白の「憶旧遊寄譙郡元参軍詩」(きゅうゆうをおもい
しょうぐんげんさんぐんによするのし)一首を草書で書いたものである。紙本37cm×39.2cm。藤井斉成会有鄰館蔵。



 黄庭堅については、まだまだ調べることが沢山ありそうです。


 【関連書籍】




2013年1月13日日曜日

出版されてる手本(法帖)の選び方

 古典の手本(法帖)はいろいろな出版社から発行されています。和書では、二玄社の「中国法書選」シリーズ(全60巻)、天来書院の「テキストシリーズ」(全60巻)がよく使われてるかと思います。

 「より臨書しやすく、使いやすく、お手頃なもの」と考えますと、上に挙げたものと、「精選 拡大法帖」あたりが、良いかと思います。その他にも、原色再現にこだわった「原色法帖選」や、中国のもの、折帖のもの、古書店でしか入手できないものなど、なかなか種類が多くて迷ってしまいます。

 どんな手本が使いやすいか、自分のスキルアップに一役買ってくれるか・・・、漢代の隷書、「礼器碑」の手本(和書)の4種類で説明します。


礼器碑[後漢/隷書] (中国法書選 5)
定番ともいえる「中国法書選」シリーズは、多色印刷で墨色がうまく再現されていて、美しく、使いやすい本です。採用している拓本も質の高いものが選ばれていシリーズです。
用紙にやや光沢があるので、テカリが気になる人もいるかもしれません。また、拓本で判読できない文字の説明などが無いので、読めない部分は書けないこともあります。


礼器碑 (百衲本)
礼器碑 (百衲本)
天来書院
こちらも定番の「天来書院テキストシリーズ」。1色刷りで、鑑賞よりも実用を重視した手本。拓本の見えない部分や、わかりづらい文字は、骨書きなどが記載されてます。
百衲本は、いくつかの拓本の良いところを組み合わせた、いわゆる”いいとこ取り”ですので、独習される方には重宝な本です。用紙はテカリのないものを採用しています。

 上の2つシリーズは、法帖の全文が掲載されています。

※二玄社の「中国法書選」と、「中国法書ガイド」がありますが、後者は「法書選」に対応した、基礎知識や解説の本で、サイズの小さい本です。ネットでご購入される場合には、名前が似ているのでお間違えの無いように…



礼器碑―後漢 (精選拡大法帖)
礼器碑―後漢 (精選拡大法帖)
二玄社

細部にこだわった臨書をしたい方にはおすすめできます。全文掲載されていないことが多いシリーズです(拡大して全文を掲載するには、かなりの頁数になると思うので、いたしかたないです)。
多色刷りで見やすく、拡大されているので、文字の細かい部分までよく見えます。半紙に4~8文字ぐらいの臨書だと、この本の文字のサイズとだいたい同じくらいになるので、見比べるやすくなります。

書道技法講座〈13〉礼器碑
二玄社

「書道技法講座」シリーズは、改訂版になってからDVDが付属しています。罫線入りの下敷きも付属していて、基本点画から、用筆法までしっかり解説されているので、初心者の方や、この法帖にはじめてふれる方の独学に最適です。


2012年12月29日土曜日

博物館・美術館・記念館のメモ

書道や日本美術などの博物館・美術館・記念館のリスト。西洋美術のも入ってます。
行ったことあるのは、いくつかしかないけれど、ネットで情報が得られるのはとても便利です。

実物でしか味わえない書作品の魅力というのもありますので、実際に行ってみた方が勿論楽しいです。 


台東区書道博物館 (東京都台東区)

東京国立博物館(トーハク) (東京都台東区)

日本書道美術館 (東京都板橋区

篆刻美術館 (茨城県古河市)

天来記念館 (長野県佐久市)

道風記念館 (愛知県春日井市)

巻菱湖記念時代館 (新潟県新潟市)

相田みつを美術館 (東京都千代田区)

頼山陽史跡資料館 (広島県広島市)

国立新美術館 (東京都港区)

東京都美術館 (東京都台東区)

三の丸尚蔵館 (東京都

江戸東京博物館

出光美術館

五島美術館

徳川美術館

三井記念美術館

松岡美術館

根津美術館

国際版画美術館

松濤美術館

ブリヂストン美術館

礫川浮世絵美術館

サントリー美術館

世田谷美術館


ネット美術館

e国宝 - 国立博物館所蔵 国宝・重要文化財




海外の美術館・博物館

國立故宮博物院 (台北)

西安碑林博物館 (中国・陝西省)

故宮博物院 (紫禁城)

吉林省博物院

MoMA

ボストン美術館

2012年12月27日木曜日

『西狭頌』は、作者名があきらかな最古の碑

西狭頌
せいきょうしょう


作者:仇靖(きゅうせい)
時代:後漢・建寧4年(171年)
現存:甘粛省成県
書体:隷書(八分)

 甘粛省武都郡の太守であった李翕(りきゅう)が、郡内の西狭の険路を改修した功績を讃えた頌文を岩壁に刻した摩崖*。全名は『武都太守李翕西狭頌』(ぶとたいしゅりきゅう-)で、『李翕頌』ともよばれる。

 碑の左側に「従史位、下弁仇靖、字漢徳書文」と小字題名に刻され、文字は彼の下役の仇靖(きゅうせい)が書いたことがことがわかる。書丹者の名が明らかに刻されている碑としては最古のものである。

 1文字は約8~9㎝四方あり、一字の欠損もない。また、碑の右側にはかつて李翕の徳業のために現れた瑞兆を示す、龍や鹿などのめでたいものの絵が刻され「五端図」と称されている。

 書風は八分ではあるが、波磔はあまり大きくなく、字形と筆意に古朴な趣があり、ゆったりとしていて都会的な弱さはない。意志的なたくましい書きぶりは、漢隷の正則と評されている。また、野性的な書を好む人に好まれている。

 隷書の入門としてもよく。臨書では均一な線を使ってもよいですし、古い摩崖の岩肌を感じさせるような書きぶりにしてみるのも面白い表現ができると思います。

*摩崖(まがい)= 摩崖刻・摩崖碑 =自然の岩壁を利用し、その岩面に文字を刻したもの。


【西狭頌を観る旅】

「漢の三大摩崖頌といわれる西狭頌郙閣頌(ふかくしょう)、石門頌(せきもんしょう)を堪能する旅」。甘粛省成県の西方約17kmの東栄村にあります。海抜1200mの天井山と単山に挟まれた魚竅峡の天井山下の岸壁に刻されています。詳しくは、日中平和観光株式会社へ...

【Googleマップで見れるか?】

甘粛省 隴南市 成県


【関連書籍】






2012年12月22日土曜日

『和漢朗詠集』 川口久雄著


『和漢朗詠集 川口久雄著
わかんろうえいしゅう
三の丸尚蔵館所蔵の倭漢朗詠集

この本(和漢朗詠集)は、御物の伝藤原行成筆、いわゆる粘葉本(でっちょうぼん)の『倭漢朗詠集』を底本としています。
底本は、縦20cm☓横12cmと、あまり大型本ではない寸法でで、手本として持ち運びに便利なかたちとおもいます。おの料紙は紅・藍・黄・茶色の薄めの唐紙に雲母引の唐花紋を刷り込んだようなとても凝った優雅な紙を使って、粘葉じたて(胡蝶装)の古風な装丁の本です。そこに楷書・行書・草書をまぜ書きした漢詩と、いわゆる行成流の草仮名(そうがな)で表記した和歌を交互に書き写した古写本です。上帖・下帖の2冊したてで、上巻は58丁、下巻は59丁の料紙を綴じています。巻首に「倭漢朗詠集」、巻尾に「倭漢抄」と内題をしるします。
底本は最善本ですが、写本ですので、時に誤字脱字があるのは避けられないことですが、明らかに誤脱と考えられるところは、出典の原拠のテキスト、または永享本などで対校して訂正が加えられています。

著者の川口久雄氏は、1910年生まれ。東京文理科大学文学部出身で、国文学(平安時代)を専門とする文学博士。著書に『平安朝日本漢文学史の研究』『菅家文草』『西域の虎』『花の宴』『絵解きの世界』『平安朝の漢文学』などがある。




【参考】

宮内庁三の丸尚蔵館 - 『粘葉本和漢朗詠集』

【関連項目】

粘葉本和漢朗詠集〈巻上〉[伝藤原行成] (日本名筆選 8)

二玄社
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2012年12月18日火曜日

王羲之の『興福寺断碑』のおはなし

興福寺断碑
こうふくじだんぴ

興福寺断碑
作者:僧大雅、王羲之(集字)

建碑唐・開元9年(721年)
現存:西安碑林博物館
書体 :行書

 興福寺断碑は、721(開元9年)年に西安の興福寺につくられた墓碑でしたが、いつしか所在不明となっていました。その後、明の万暦年間(1573~1620年)に長安南方の空濠の中から出土しましたが、発見されたときは既にこの碑の上半は失われていました。

 碑は僧大雅によって、『集王聖教序(または集字聖教序)』や、その他の王羲之の作品の中の文字を集めてきてつくられたものと考えられている。『集王聖教序』に比べても劣らぬほどよくできているので、古来から行書の模範として重んじられてきたました。書風について両碑を比較して見ると、この碑の方が全体の字体も整い、書風も温健、用筆も穏やかです。

 下半截のみ現存している碑は、西安碑林博物館にあり、下半の残碑のサイズは高さ約126cm×横93cm。下半分だけの碑になっているため、『断碑』または『半截碑(はんせつひ)』と呼ばれています。欠失した上半部は、濠の工事にでも使用されたのではないかという説もあります。

【参考資料】

早稲田大学の資料室(拓本画像あり)

・中国語では、『兴福寺残碑』です。こちらで検索すると、なかなか深い情報が出てきます(中国語サイトですが、写真や拓本などを眺めてみるのも楽しいのでオススメです)。